ワイン好きな象と猫

フランス生活の忘備録

生ハムメロンと白ワイン

ロワール地方のとある村のホテルで、併設のレストラン、ビストロ、バーでのサービスの仕事に就くことが出来た。契約書を交わす、念願のフルタイムの仕事である。

 

決まってとても嬉しいと思いきや、いやもちろん嬉しいのだが、すらすらと話が進み、決まってしまったことに対する驚きというか、きょとんとしてしまった。

 

フランスへはサービスの仕事をしたくて来た、フランス語は全然話せないものの何とか見つかるだろうという、いつもの楽観主義を発揮して簡単に考えていた。でも現実は上手くはいかなかった。

 

リヨンで生活をし始めて、二週間と少しが経った頃から仕事を探し始めた。日々日本で貯めた貯金が減る一方であることが不安で、外食にも行けなかった。その状況を変えたかったのが大きかった。そこでずっと働くというかフルタイムのサービスの仕事が見つかるまで生活費の一部を稼ごうと思ったのだ。語学が不十分であることを自覚していたのでレストランでのサービスは無理だと考え、語学が不安でも働けると聞いたバー、カフェを中心に探した。事前に調べて雰囲気の良さそうなワインバーから回った。

 

最初に履歴書を持って行ったのはベルクール広場近くのワインバーであった。緊張してお店の前を二回ほど素通りし、遠くからお店を見つめる。ひるむ自分自身を日本語で勇気づけ夜の営業前でリラックスしている定員さんに話しかけた。

店員さんは最初お客だと思い、笑顔で話しかけてくれる。しかし思いがけず私の口からお店で働きたいという事を聞き、驚いたのだろうか、呆れたのだろうか。顔が一瞬曇る。相手の表情にひるんだが、片言のフランス語で日本でのサービスの経験と仕事への意欲を伝えた。定員さんは申し訳なさそうにそして諭すように

 

「もううちにはソムリエがいるからごめんね」と言った。

 

私は「D'accord, Merci 」としか言えなかった。独り言で自分を慰め、次のお店にいく、次はジャズバーに行った。またお客だと思われる。相手が英語で話しかけてきたので、そのまま英語で働きたい意思を伝える。相手が親日家だったこともあり、話が少し弾んだ。しかし「フランス語が出来ないとサービスはできない」と言われた。ただ忙しいときに呼ぶかもしれないという事になり、とりあえずオーナーに見せるからという事で履歴書を渡す。後日連絡をするからということで、嬉しくなった。

 

その日はビールを買い、プチ贅沢をした。ダメにせよ、いいにせよ連絡が来ると思っていた。それだけで何か一旦成し遂げたような気がした。

 

しかし1週間が経っても連絡はなかった。おそらくこれからも連絡はないことは何となく察した。それからというもの実際にお店に履歴書をもって回る事20軒ほど、求人サイトからメールを出すこと30軒ほど。反応はほとんどなく、直接渡したCVはもはやオーナーに渡してもらえたのかどうか分からない。運よく履歴書を受け取ってくれてもそのあと連絡がないことに慣れていった。求人サイト経由で送ったメールにはお祈りメールが一件、面接の日程の話まで行ったのは二件でうち一件は面談までいったものの語学力不足で断られ、もう一件は途中でメールの返信が来なくなった。求人があるにも関わらず、返事がないことに少し落ち込んだ。しかしこれがフランス語の出来ない者への当然の結果だったのだと思う。

 

結局リヨンでは最終的に、表に「皿洗い、調理補助募集」と書かれた日本食店の調理場として働く事になった。とりあえずお金がもらえることは嬉しかったが、元々サービスとして働きたかった事を思い出し、楽に流されたようで、甘んじているようで恥ずかしかった。

 

求人サイト経由でメールするなどと並行して働いた。その後、系列店の和のテイストを取りいれたフレンチのお店で皿洗いとして働く事になった。これに対してはまた別の機会に書きたいと思う。フレンチであること、フランス人ばかりの職場で少し嬉しかった。

 

と、リヨンでのことを思い出しきょとんとしていたのだ

 

私が働く事が出来たのには実はカラクリがある。村に在住の日本人の方に紹介してもらったのだ。私が日本で働いていたお店のソムリエの方が知り合いのワインのインポーターに頼んでくれ、インポーターの方にその方を紹介してもらったのだ。もし仮に今回雇ってくれるホテルに私が直接履歴書を持って行ったなら結果は違ったのかもしれない。人の紹介とは本当に有難いものである。

 

今回仕事を得れたことは私の実力ではないが、強いて言うならばいろんな方を紹介もらい、その方たちと知り合えたという縁が大きかったのではないかと思う。

 

まだ仕事を得れただけで、本番はこれからである。フランスに来た目的であるサービスの向上、ワインの知識、経験を増やすこと、フランス語の上達などやるべきことはたくさんある。今回の幸運は最後まで上手くいってこそのものである。また紹介してくれた人の顔に泥を塗るような事は絶対にしてはいけない。改めて、ここからが始まりである。

 

そしていつか、自分と同じような人の力になりたいと思う。

自分自身が繋げてもらった縁をまた誰かの縁に繋げたい。