ワイン好きな象と猫

フランス生活の忘備録

大人ポリタン

リヨンではフレンチのレストランの皿洗いをしていた。

一緒に働くのはスーシェフがアルゼンチン人であるのを除きみんなフランス人だった。

働き辛いと思いきや、とても気持ちよく楽しく働けた。

 

私が働いたレストランでは、まず着くと賄をみんなで食べることから始まる。「Bon soir」と言いながら入ると「Bon soir, ça va?」と誰かが言ってくれる。私はよく「ça va bien」と言って席に着き賄を食べる。スーシェフは陽気な人で賄を食べた後はお決まりの2週間おき毎ぐらいに変わる歌を口ずさみながらその日の予約分のアミューズを準備する。サービスの女性は賄を食べた後、席に座って恭しく煙草を一本手で巻き、外で吸う。サービス長はTシャツ短パン姿からしわのないシャツとジャケット姿へと雑談しながら着替える。シェフはというと大概外で空気を吸うかスマホを見ている。私は白シャツに着替えエプロンを着けると水を一杯飲み乾し、たまった洗い物を消化し始める。みんな何かしらのルーティーンのようなものを持っている。

 

サービスの人は基本陽気だ。下げたお皿を洗い場に渡す時、「〇〇~」と私の名前を呼んだり、ウインクをしたり、時には猫の声真似をする。暇なときはフレンチジョークを教えてくれる(大概理解できないので英語で解説してもらうが)皿を洗うだけで「Merci」と言ってくれる。お客さんの前で笑顔は基本だが、彼らは裏側に来ても基本変わらない。むしろ表より明るい気がする。

 

私は料理人の無駄のない動きを見るのが好きだ。皿を洗いながらよく見入っていた。時々ソースを味見させてくれたり、つまみ食いさせてくれた。忙しい時にピリピリはするが決して理不尽なことで怒るようなことはなかった。というより「こうした方がいい」というアドバイスはあっても、働いた一か月と少しの間、怒られたことはなかったと思う。

 

皿洗いの僕はサービスやキッチンの補助役的なことをしたり、時間があればキッチンの一角の掃除をする。私としてはお給料を頂いてるし、頼まれたことは当然のこととして行うのだが、終わったり、物を渡したりそれだけで「Merci」と言ってくれた。丁寧に掃除をすると「トレビアン」と言ってくれた。少しこそばゆい気持ちになったりした。

 

メインを出し終えるとシェフがノートに何やら書き込んだ後先に帰る。帰るときは必ず全員の所にいき握手をする。お互いに「à demain」や「Bon weekend」と言う。デザートを出し終えたスーシェフも同様に、ただスーシェフは肩をたたいてからの握手が多かった。日本でやるとセクハラになるのかどうか知らないが、握手したり肩をぽんってたたかれるのが私は好きだった。仕事が一段落したようなそんな安心感があった。

 

それから片付けを終えると片付けと明日のテーブルセットをするサービス長の二人だけに良くなった。最初は忙しい金曜と土曜、いつのまにか毎日仕事終わりに一杯飲ませてもらうようになった。

 

 

私はいつも白ワインをオーダーした。サービス長は勉強のためにいつも違うワインを飲ませてくれた。サンセール、クローズドエルミタージュ、サンジョセフ、ブルゴーニュ、ピュイフュメ、サンペレイ、ピュイフュイッセなど同じ産地で生産者違いなど二種類飲み比べさせてくれる日もあった

 

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私はそれが嬉しくて、少しでも勉強になったことを伝えたいのもあって、いつもワインの感想とこのワインにはメニューのこれが合うだろうかという事をサービス長に聞いたりしていた。ワインについて勉強する機会をくれていた。

 

私が働いた所がたまたまそうだったのか分からないが、人として敬意を払ってくれるそんな職場だったと思う。一番印象的だったのは相手がミス(私の作業に差し障る、もしくは作業を増やす)した時に「ごめん、私のミスだ」と言ってくれたことだ。私が一番下っ端なのでそんなこと言わなくてもよい気がしたのだが、でも自分のミスをちゃんと認めて謝る職場の人達に私はますます敬意を持つようになった。


この職場で働く最後の日、「リヨンに戻って来たら食べに来なよ。ただし、料金は2倍だけどね笑」とシェフ。一番仲の良かったスーシェフは「頼んだ事は全部きっちり、綺麗にやってくれた、中々誰にでも出来ることではない、ありがとう」と


書いてて気恥ずかしいが、社交辞令でもいい、最後にこう言ってもらえた事が嬉しかった。

 

日本では今、働き方改革ワークライフバランス、育休制度、などという言葉をよく聞く。もちろんシステム的な改革は必要だと思うが、フランス人の?その職場の?そういった人として敬意をもってお互いに接する事が働きやすさの基本ではないかと思う。

 

私もいつか日本で集団の中で仕事をすることがあるだろう。

その時に相手がだれにせよ「ありがとう」と「ごめん」が言えるそんな人になりたいと思った。